町田康「告白」

町田康「告白」
以前から興味があった町田康の「告白」をこの年始の休暇中に読んだ。文庫本で850ページ、厚さ3.5センチ。こんなヤツ、空白の時間が流れる正月でなければ手が出ません。このボリュームでありながら複数巻に分けないのは、章立ての全く無い本文から類推しても著者の意図でしょう。元日に鈴木大拙の「日本的霊性」をやっつけた後、2日から着手し休暇中に何とか任務完了。

「河内十人斬り」と呼ばれ明治26年に大阪府南東部の村で実際に起きた10人が惨殺される事件を題材にした小説。人並み外れて思弁的内省的でありながら博打、飲酒、婦女に放蕩三昧の無頼漢を演じ空回りを続ける城戸熊太郎と弟分の谷弥五郎。村の顔役である松永家の親兄弟と金銭トラブルや姦通トラブルと耐え難い侮辱を受けることを重ね私怨を募らせた末の犯行。

この本の中で物語が大きく動くのは残り100ページほどから。そこまでは700ページ余りに渡り様々なエピソードの中での熊太郎の内面をひたすら重層的に描く。自身の葛藤とは裏腹に任侠気取りしてしまう不器用な生き方に押し潰されそうになる熊太郎に徐々に感情移入する。そして熊太郎は最後に何を「告白」したかったのか?溢れ出る涙とともに「あかんかった」と洩らし自らに引き金を引く。余りにも切ない。

ウェブ上では総じて良い書評の中にも、文法が滅茶苦茶とか表現に統一感が無いという酷評もある。しかし、私は町田康独特の言語感覚と好意的に受け止める。むしろクセになる言語表現。そしてこの読後感。読了後、気になった場面まで遡り繰り返して読んだ小説は久し振り。本物の熊太郎は単なるクレイジーだったのかもしれない。しかし、物語の中の熊太郎には今も感情移入から解けることありません。素晴らしい。


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